スズメと僕の話
ずいぶん昔の話。
ある日、ベランダに一羽のスズメが飛び込んで来た。
バタバタした羽音と鳴きわめく声に何だろうかと覗いてみたら、スズメがそこにいた。
かなり小さい。
子どものスズメだ。
どうやら羽が傷ついているらしい。
僕はそのスズメを何とかしてあげたいと思ったけれど、まだ子どもだったので、どうしていいか分からなかった。
とりあえず水をあげることにした。皿に水を入れてくちばしに近づけてみた。
猫や犬のようにすぐに飲むのかと思ったら、スズメは何の反応もしなかった。
相変わらずピーピーうるさい。
僕はどうしたものかと考えた。
答えは出ない。
周りを見てみるとスズメが近くの電線にとまっている。何となく親鳥ではないかという気がした。
そういう気がしてくると、なんだか僕が子どものスズメをいじめているような気持ちになった。
頼むから鳴かないでほしい。誤解だ。そんな気持ちでスズメを見ていた。
お腹は空いていないのだろうか。
スズメは警戒心が存外強い。
とくに子スズメから見れば、いくら小柄な僕でもとんでもなく大きな生物なのだろう。
脅威を感じるのも無理はない。
やがて子スズメは鳴き止み、動かなくなった。
どれくらいの時間が経ったかは覚えていないけれど、そんなに長い時間ではなかったと思う。
結局、何もできなかった。
僕は庭にその子を埋めた。
あれから何十年も経ったけど、スズメを見ると時々思い出す。
このスズメはあのスズメではないのだと。そして、歳を取った今でもスズメを救う自信は全く無い。