はずれスライムのつぶやき

どうでもいいことについて適当に考察していきます

今日の電車

4両目

 

今日も私は電車に乗る。

 

そして他人の行動に違和感を覚える。

 

メイクタイムが始まっているのだ。

 

時々見かけるその女性は動画でメイク術でもアップしているのか、卓越した技術を披露する。

 

乗る時と降りる時では別人なのだ。

 

ビフォーアフターの違いが甚だしい。

 

本人はもっぱら鏡の中のアクトレスに夢中なので、チラ見していると、もうそれは美容クリニック顔負けの整形手術なのである。カラコン、つけまつ毛。涙袋さえ見事にペン先一つで形成してしまう。陰影のつけ方も含め、ほとんどトリックアートの域だ。「凡人は模倣し、天才は盗む」と言ったのはピカソだが、彼女はあらゆるメイク術を試行錯誤し、習得したに違いない。

 

顔というキャンバスに思いのままに描かれる美女の数々。モナリザの微笑み、観音菩薩の品格。

 

ある時は小料理屋の女将、ある時はギャル風、ある時は薄化粧ではないはずなのにナチュラルメイク。

もしかしたら彼女は本当に女優なのかもしれない。

 

「女は秘密を着飾って美しくなるのよ」と言いつつ、メイクして化けるベルモットに似たものを感じる。

 

きっと大きめのバッグにはありとあらゆるメイク道具が揃っているに違いない。

 

さすがにウイッグまで取り出した日には本気でスパイかと疑った。

 

それを公開する度胸もすごいものだ。

 

そこへ行くと男性は不利である。

 

髪型でごまかすくらいがせいぜいだ。

 

生まれつきのイケメンはイケメンであり、雰囲気イケメンは苦労の末だと言える。極端な話、髪型が残念でも顔立ちが良ければ加点される。しかしその逆には限界があるのだ。コンボは無い。ただただ滑るだけだ。

 

女性のメイク動画はものすごい人気だが、男性のヘアアレンジ動画はそうでもない。コメントも女性の方が圧倒的に多いので、結局イケメン目当ての再生数なのだろう。

 

つまり、土台の違いはどうしようもないという事をごまかしようのない男性は中身で挽回するのか。

 

たまに虫除けレベルの臭気を放つ香水レディに出会うこともある。人工加齢臭と言い換えてもいい。

こういう人はきっと鼻が麻痺しているのだろう。

 

深夜の電車で居酒屋臭とパフュームのケミストリーが繰り広げられているとなかなかのものである。これが歌番組ならなかなか豪華なゲストだが。

 

一方で、おじさんならではの整髪剤や香水というのもある。それを嗅ぐとより存在が強調されるような匂いだ。臭い消しが匂いではなく臭いを上乗せしてしまうような。

 

まぁ、かと言っていい香りがするおじさんもちょっと嫌だろうが。せめて翌日はその汚スーツで出勤して欲しくないものだ。おじさんばかり批判するのも公平ではない。私もおじさんなのだから若い人の事にも触れよう。

 

私は基本的に席が空いているなら隅っこを選ぶ。

 

理由の一つは誰かが隣に座っても、一番端に座ればそれ以上詰める必要がなくなるからだ。

 

もし真ん中辺りに座ると両端の陣取りゲームが気になっていらぬ神経を使う事になる。仮に全部の席が埋まって位置が確定されても、次に同志が入れ替わり新規メンバーが来れば、体型や人数によって麻雀牌を整理するかのごとくスライドゲームが始まる。

 

ただ、隅に座るからと言って安心できないのがカバン攻撃である。

 

私は席が埋まっているとドア際に立ちたくなる方だが、一つ気をつけているのがこれである。

 

特に学生に多いのだが、とんでもなく大きなカバンを肩に下げたままドア際に立たれると、そのカバンが端に座っている私の顔の付近をゆらゆらするので気になって仕方がない。

 

もしも顔に当たれば(もちろん嫌だが)相手も気づくのだろうが、寸止めの除夜の鐘である限りはなかなか分かってもらえない。当たる前にとがめても無意味だろう。

 

また肉弾戦もある。端の席にあるガードに全身を委ね、そのガードからはみだすスライム肉がじわじわと私の肌に触れる。気づいて離れる人もいるが、中には私を何かのクッションのように認識するのかそのままぐいぐいと侵食してくる人さえいる。

 

逃げ場が無い。

 

これは何の罰ゲームだろうか。

 

満員電車なら我慢もできるが、そういう人はいつもそうしているのか特に気にもとめない。

 

だから私は少食を心がけ、痩身でなるべく小さなカバンを持つようにしているのだ。

 

もちろんリュックなどもってのほかである。

 

時々、私は配慮してますよとばかりにリュックをカンガルー抱っこしている人がいるが、座席の前でつり革につかまっているのならともかく、満員電車で亀のこうらがメタボに変わったところで空間の問題は変わらない。質量保存の法則を知らないのか。

 

あと、降りる間際になってドア付近でスマホを触る人も理解できない。

 

今まさにみんなが同じ出口に殺到しているその時に、せき止め作業を始めるのはなぜか。後ろで並んでいる私にはつまらないゲーム画面しか見えない。あなたは今おじゃまパネルになっているのに、消せないもどかしさ。

 

もし消せるのなら私は課金してしまうかもしれない。

 

こうして今日も私の中のパズルは解けないままに終わる。