愛しのコーヒーゼリー
僕は背が低い。象は鼻が長い。
僕の背は低い。象の鼻は長い。
ある日のこと、僕が冷蔵庫を開けると、目線の少し上にカップに入った黒い物体が三つ並んでいた。
家族の誰かが買ってきたと思われるそれが、網目状の棚から透けて見えたのだ。
三つの黒いカップ。
そう、コーヒーゼリーである。
黒い三連星である。
しかし、手前には白い奴がいた。
そう、ヨーグルト連邦軍である。
連邦軍の壁は分厚い。
少なくともあと数日は消費しないと、たどりつくことはなさそうだ。
それからの僕は冷蔵庫を開けるたびに、コーヒーゼリーの存在を意識した。
くる日もくる日もあの子の存在を確認し、時には気づかないふりもしてみながら、
抑えきれない気持ちを毎日つのらせていた。
そしてついに運命の日を迎えた。
その日は朝から心のどこかがざわついていたと思う。
冷蔵庫を開けると、連邦軍の壁は崩壊し、今日の夜食のデザートになることは確実だ。
コーヒーゼリーメジャーデビュー決定‼︎
路上ライブとは名ばかりの誰も見向きしない所でギター片手に歌っていたあの子が、ついに今日、夢の大舞台でスポットライトを全身に浴びるのだ。
僕は高ぶる気持ちを抑え、家を後にした。
外で食事をしていてもコーヒーゼリーの口になった僕は、彼女の事ばかり考える。
そして夜。
夜は誰にでも平等にやってくる。こんな背の低い僕にもだ。
夕食をいつもよりゆったりとした調子で食べ終え、僕はついに黒い三連星に手を伸ばした。
少しかかとを上げて引き寄せたそれは、かわいいカップが三つ並んで包装されている。
ん?
直後に感じる違和感。
もし僕が漫画の主人公だったら、目が点になるか、ちびまる子のようにどよんとした縦線が入っていただろう。
僕の手の中にあったのは、もずくだった。
オシャレでかわいいカップに鎮座ましましているのは、無数の黒い渦をまくもずく達だったのだ。
腹を立ててはいけない。
誰も悪くはない。
僕は努めて冷静な手つきで一つ取り出すと、カップゼリーの面持ちでおもむろにフタを開け、一気に喉の奥へともずくを流し込んだ。
デザートだったはずの味は、酸っぱい味がした。